0〜2歳の長時間保育は本当に「かわいそう」?ストレスと発達の研究から見えること

保育園で遊ぶ赤ちゃんと、タブレットで動画を視聴する赤ちゃんを対比したイラスト。最近話題の「保育と動画視聴が0〜2歳に与える影響」についての解説記事用アイキャッチ。 育児・子育て
保育園で遊ぶ赤ちゃんと動画視聴中の赤ちゃん。幼児期の環境差をテーマにしたアイキャッチ画像。

SNSでは
「0歳からの長時間保育は脳に悪影響」
「保育園でコルチゾール(ストレスホルモン)が上がって、将来のメンタルに問題が出る」
といった強いメッセージが流れています。

同じように「幼児のYouTube視聴は脳に悪い」「0〜3歳は本当にヤバい」といった投稿も多く、
0〜2歳の子どもを育てる親としてはかなり不安になりますよね。

この記事では、これまでの研究をざっくり押さえたうえで、

  • 何が「ある程度分かっている」のか
  • 何は「まだはっきりしていない」のか
  • その上で、0〜2歳の毎日の過ごし方をどう考えればいいか

を整理していきます。


1. 研究が示している「長時間保育とコルチゾール」のポイント

1-1. 保育園に行くとコルチゾールが上がりやすい

海外のメタ分析では、
保育園(center-based daycare)にいる日の方が、家にいる日よりもコルチゾールが高め
という結果が繰り返し出ています。

  • 特に 0〜3歳ごろの幼児では、午前→午後にかけてコルチゾールが上がる「日中上昇パターン」が見られやすい
  • 家で過ごす日は、むしろ午前が高くて夕方に向かって下がる「通常パターン」になりやすい

つまり、集団保育の場は、子どもにとってそれなりにストレスフルになりやすい
ということ自体には、かなり根拠があります。

1-2. でも、すべての子が同じようにストレスを感じているわけではない

一方で、細かく見ていくとこんな結果も出ています。

  • 保育者との安定した愛着関係(アタッチメント)がある子は、
    コルチゾールが上がらず、むしろ下がるパターンも見られた
  • 家庭環境リスクが少ない「低リスク家庭」では、保育時間が長いほどコルチゾールが上がる傾向
  • 一方、家庭にストレス要因が多い「高リスク家庭」では、
    保育時間が長いほどコルチゾールが下がる=むしろ保育園が安全基地になっている可能性も報告

つまり、

「長時間保育=すべて悪」ではなく、
保育の質や家庭環境によって、ストレス反応の意味合いが変わる

というのが、今出ている研究の大きなポイントです。

1-3. 「ストレス→思春期以降の問題」まで証明した研究は、まだほとんどない

よくあるメッセージは、

「幼児期に保育園でコルチゾールが高かった
→ 脳の発達に悪影響
→ 思春期や大人になってからメンタルや行動に問題が出る」

という「長い因果ストーリー」です。

ただ、現時点での研究では、

  • 保育園のコルチゾールの上昇が
  • 何年、何十年と続く慢性的な高ストレス状態なのか
  • それがダイレクトに、将来のうつ・不安障害・非行などにつながるのか

を長期で追ったデータは、まだかなり限られているのが正直なところです。

「可能性を示唆する研究」はあっても、
「日本の0歳からの長時間保育は、思春期の問題の直接原因だ」 とまでは、
科学的には言い切れません。


2. じゃあ結局どう考えればいい?0〜2歳の過ごし方の“よくある疑問”Q&A

ここからは、研究の話を踏まえて、
0〜2歳の親が抱きがちな疑問を Q&A 形式で整理してみます。

Q1. 0歳から保育園に預けるのは、やっぱり「かわいそう」?

A. 「預ける=かわいそう」ではなく、「どう預けるか」の問題。

  • 保育園に行くこと自体が即アウトではなく、
    そこで どんな関わりをしてもらえるか(保育の質) が重要です。
  • 安定した保育者との関係、少人数での手厚い保育、
    柔らかい雰囲気の園であれば、子どもにとって安心できる第二の居場所になりえます。
  • むしろ家庭側に大きなストレス(DV・貧困・育児孤立など)がある場合、
    「保育園の方が安全で安心な環境」ということも、研究から示唆されています。

「0歳から預けるかどうか」よりも、
どんな園を選ぶか/家庭ではどう関わるか を考える方が現実的です。


Q2. 何時間までならOK?「長時間保育=悪」なの?

A.「◯時間までは安全」という“魔法の数字”はありません。

研究で見えているのは、

  • 一般に、保育時間が長くなるほどコルチゾール上昇の傾向は強くなりやすい
  • ただし、その影響の出方は
    • 保育の質
    • 子どもの気質
    • 家庭環境
      などによってかなり違う

ということだけです。

現実的には、

  • できる範囲で延長保育を常用しないように働き方を調整する
  • どうしても長時間になる場合は、
    • 園の先生と子どもの様子をこまめに共有する
    • 家にいる時間はできるだけベタベタ甘えさせる・スキンシップする

といった「トータルバランス」で考えるのが現実解かなと思います。


Q3. 家で見ている YouTube やテレビはどう位置づければいい?

最近の研究では、

  • 幼児期の**長時間のスクリーンタイム(テレビ・動画・ゲームなど)**は、
    言語・注意力・社会性・睡眠などに悪影響を与える可能性がある
  • ただし、「内容」「親との共同視聴」「他の遊びとのバランス」によって
    影響は大きく変わる

と言われています。

0〜2歳では、

  • できる限りスクリーンタイムは少なめに
  • 見せる場合は
    • 親と一緒に見る
    • 見たあとに話しかけたり、一緒に遊んだりして「現実世界に戻す」
    • 他の遊び(外遊び、絵本、積み木、ハイハイ・歩くなど)をしっかり確保

という **「使うなら付き合い方を工夫する」**スタンスが、今の科学の主流です。


Q4. 家で見ているならストレスはない?「家庭保育=完全に安心」?

A. 家庭でも、ストレスがゼロとは限りません。

  • 親がいっぱいいっぱいでイライラしている
  • ずっとスマホを見ていて子どもとほとんど関わらない
  • 夫婦げんかが多い/孤立している

こうした環境は、たとえ保育園に行っていなくても、子どもには大きなストレスです。

研究では、

  • 親子の安定した愛着関係
  • 親からの予測可能であたたかい関わり

があるかどうかが、コルチゾールや脳発達にとって非常に重要だとされています。

「家にいるから安心」ではなく、
家でどう過ごしているかを見直した方が、子どものストレスには直結します。


Q5. 0〜2歳の「毎日の過ごし方」で意識しておきたい4つのポイント

研究を全部ひっくるめると、
0〜2歳では次のようなことを意識するとよさそうです。

①「安心できる大人」を軸にする

  • 家でも保育園でも、子どもが安心して頼れる大人がいることが最優先。
  • 園選びでは「先生の雰囲気」「子どもとの距離感」「職員の定着度」をチェック。

②「長時間ストレス」ではなく「回復できる時間」を確保する

  • 保育園で頑張っている分、
    帰宅後や休日は
    • 抱っこ、添い寝、スキンシップ
    • 何もしないでダラダラ過ごす時間
      を意識的に作る。
  • 「頑張って遊びに連れ回す」より、家でゆるく甘えさせる方が0〜2歳には大事なことも多いです。

③ スクリーンタイムは「少なめ+一緒に+質を選ぶ」

  • どうしても見せる場面はあるので、
    • 時間を決める(ダラダラ見せっぱなしにしない)
    • できるだけ一緒に見る
    • 刺激が強すぎる動画(早すぎるカット割り・大音量・暴力的)は避ける

④ 親の罪悪感を「行動」に変える

  • 「長時間保育でごめんね」「YouTube見せちゃった…」と責め過ぎると、
    それ自体が親子関係のストレスになります。
  • 完璧は無理なので、
    • 園から帰ったら5分だけでも全力で向き合う時間を作る
    • 寝る前の絵本1冊+ぎゅーだけは死守する
      など、自分なりの“これだけは”ルールを決める方が建設的です。

3. 現時点の「結論」まとめ

最後に、ここまでの話を一言でまとめると、

0〜2歳の長時間保育は、ストレス(コルチゾール)を上げる可能性は高い。
ただし、保育の質・家庭環境・親子関係次第で、その影響は大きく変わる。
「長時間保育=将来必ず悪影響」とまでは、今の科学では言えない。

ということになります。

だからこそ、親としてできるのは、

  • 「預ける/預けない」の二択で自分を責めることではなく、
  • 預けるならどう環境を整えるか
  • 家でどう回復の時間を作るか
  • スクリーンタイムをどう付き合うか

を具体的な行動レベルに落とし込んでいくことかな、と思います。

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